宮 信明(准教授:学科長 コース主任)2026年9月卒業時の講評

年月 2026年9月
みなさま

卒業研究レポートの作成、そして提出、本当にお疲れさまでした。

大きな課題を乗り越え、いまはホッと一息つかれているところでしょうか。
まずは何よりも、ご自身が達成されたことを大いに誇ってください(ぜひ周りに自慢しましょう!)。

今期の卒業研究は114件の提出がありました。ちなみに、昨年度の秋期は108件、一昨年度は106件、3年前は97件、4年前は83件、その前は……、ちょっとしつこいですね。いずれにしても、昨年度より6件、一昨年度より8件も増えたことになります。これだけ多くの卒業生を送り出すことができ、私たち教員にとっても、こんなにうれしいことはありません。

みなさんのご卒業を寿ぎ、謹んでお慶びを申し上げます。

さて、今回、私が担当した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。

・よみうりランド
・八王子車人形
・私設図書室「鈍考」
・ロンドン補習授業校ブレント校舎図書室
・北名古屋市歴史民俗資料館(昭和日常博物館)
・加須うどん
・台中・宮原眼科
・ジャズ喫茶「開運橋のジョニー」
・栗きんとん
・ブラジル音楽
・土間シネマ
・木組み博物館
・新発田市デジタルアーカイブの古地図コンテンツ
・大和市文化創造拠点シリウス
・富山市立図書館本館

いかがですか、このラインナップ!
今期、私が採点を担当したレポートは、図書館や図書室、博物館、映画館等を取り上げたものが多かったように思います。とはいえ、その他にもテーマパークや人形芝居、音楽や食文化など、驚くほど多彩なテーマで卒業研究(=評価報告書)が作成されていました。これでも専門分野を考慮して担当教員に振り分けられていますので、全体像はもっと多様性に富んだものになっています。

今年度、私が採点を担当したのは15件。いずれのレポートにおいても、興味深い事例が報告されていました。また、それを論じるための視点もじつに多彩で、読み応えのあるものばかりでした。
それぞれのレポートの点数と講評については個別にお伝えしてありますので、ここでは、採点・講評を担当した卒業研究の中から、興味深く拝読したレポートをいくつか紹介してみたいと思います。

1つ目は、私設図書室「鈍考」を取り上げたレポートです。その空間デザインについて、「空間構成」と「運用」という2つの視点から考察が加えられていました。読書に集中したいという利用者の意識が、互いに配慮して行動する共同性へとつながり、その結果、読書に集中しやすい環境が維持されていると、丁寧に論述されていて素晴らしかったです。社会学や心理学、建築学などの先行研究を踏まえつつ、しっかりと考察されていました。そういえば、読書にはどういった姿勢がいちばんいいんですかね。そんなことが、ふと気になりました。

2つ目は、ロンドン補習授業校ブレント校舎図書室を取り上げたレポートです。図書館学やデザイン学などの知見も参照した上で、聞き取り調査も実施されていました。特に、「今後の展望について」で示された、在籍期間という時間の枠に捉われず、「人としての成長」を見据えた図書室における教育の実践というのは、実現の可能性が高く、非常に優れた提言になっていたと思います。それにしても、図書室や図書館という響きは、どこか神秘的で蠱惑的ですよね(そう感じるのは、私だけではないですよね?)。

3つ目は、新発田市デジタルアーカイブの古地図コンテンツを取り上げたレポートです。デジタルアーカイブ学の研究成果をきちんと示しながら、古地図を地域理解の入口として機能させることで、利用者が土地の歴史を読み取れるように設計されていることが、この文化資産の特質として明快に論じられていました。近年、さまざまなデジタルアーカイブが公開されていますが、なかにはあまり利用者のことを考えていないものもありますよね。その改善のための、ひとつのヒントにもなっているのではないでしょうか。

ここでは上記3つのレポートに言及しました。もちろん、それ以外にも素晴らしいレポートがたくさんありました。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。そのため、個別講評では厳しいことも書いてしまいましたが、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。

さて、最後にみなさんへ、こんな言葉を贈りたいと思います。

根気づくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。

これは、夏目漱石が芥川龍之介と久米正雄に宛てた手紙の一節です。大正5(1916)年8月24日付ですから、この7月に東京帝国大学を卒業したばかりのふたりへの、花向けの言葉といっていいでしょう。

卒業研究の成果は、一朝一夕に得られたものではありません。みなさんがこれまで一歩ずつ積み重ねてきた努力と学びの賜物です。その歩みに、心から敬意を表します。
ぜひこれからも、芸術教養学科で学びを糧に、それぞれの興味や関心を大切にしながら、「うんうん」と歩み続けていってください。

それでは、改めまして、ご卒業、誠におめでとうございます!