障害者アート支援 NPO ココペリについて
富山県高岡市古国府にあるアートNPO工房ココペリ。この施設は富山県障害者芸術活動支援センター、ばーと◎とやまの活動の一つで、アール・ブリュットを旨とする高岡支援学校美術部 OB が2007年に結集しできた施設である。彼らの活動経緯から対象者にとってどういう場所か述べてみる。
評価価値
富山県内の各地で活動しているが、ココペリに入所する障害者にとって何の役になるのか。『資料1』それは遊戯療法と作業療法における自己表現手段の開発ではないだろうか。
遊戯療法とは対象者に、遊びを通して行う心理療法である。目的としては言語表現より遊びに表現のほうが自然で適切とされる。(1) ココペリの場合は障害者のこだわりが創作に傾いた人々のために結成したものである。 だがこの活動を続けるには支援者が厳守することは何か。
1、障害者との友好関係。
2、 対象者のあるがままの受容と受容感情の生成。
3,子供の奥底にある感情から子供に返す行動の理解につなぐ。
4, 機会さえあれば自らの力で問題解決できる力があると信じさせ、子供に指示をしない。
5,治療を急がず、治療を現実につなげるために、支援者との関係が子供に責任があることを自覚させる。(2)
これは、障害者の愛着やこだわりのために周囲への興味を持たず、社会から孤立するために、療育者との信頼関係を構築するものである。ではなぜこだわり行動に起因するのか。その特徴というと、“①変化を受けつけない。②同じことを繰り返す。③新しいことや環境に対して、拒否反応を示す。”(3)
愛着を持った対象物や行為を延々と続けるのである。この行動への解明には1980年代に行動問題の要因に意思疎通の問題から、代替策の模索に始まったのである。
1990年代になるとASDの行動問題の多くがこだわり行動が基盤であるとされ、こだわり行動をより社会的に適切な代替行動に変換し改善して行くよう取り組まれてきたのである。(4)
もし療育者として障害者と接するなら、対象者の関りで「大好き」のこだわり行動が共有できること。かつ彼らの行動に干渉せず障害者のコミュニケーションの代替策に至る関係を持つことである。この関係の一つがこの工房である。その一例にASDの作家である下山氏『資料2』のように展示会の企画など支援を受けて活動しているのである。
一方作業療法というと身体及び精神に障害がある、または予測される者に対して主体的な生活への回復、維持、および開発を行うものである。(5)日常生活においては作業所で勤務『資料3』 することで生活における知能を獲得していくのである。
比較対象
ココペリと同じく障害者を対象にしたアート工房が、石川県金沢市の金沢アート工房である。(6)この工房ではアウトサイダーアート作家の養成を目的としており、石川県内の芸術家を講師として迎え、月二回活動している。
工房の責任者に聞いたところ、“工房の開設当初(2007年)は福祉施設にも理解されなかったが、 後に新聞記事に取り上げられて知れ渡り、金沢市の委託事業として承認されたのである。
加入する作家は現在13名が活動し、工房としての拠点施設はなく現在は金沢市所有の施設の研修室等を借りている。
近年は2023年現在まで金沢21世紀美術館で個展の「アウトサイダー・アート作品展inいしかわ百万石文化祭 2023」を開催。さらには、作品レプリカの販売として近年は企業や自治体とのコラボ企画で商品デザインでの使用に携わっている。“ (7)
活動規模は金沢アート工房がココペリより大きく比較にならない。だが、入所者の選出には対象者の作品の画像審査を用いて選別するという。
ココペリの場合は高岡市の支援を受けているが、活動場所の人数制限から現在は入所者を募集していない。代わりに賛助会員として受け入れており、取材した下山氏のように活動支援を受ける者もいるのである。さらにはココペリから派生した 369ART 『資料4』が存在する。
活動方針というと主に障害者の表現の発信、イベント企画を中心に、公共施設を借りて障害のある人の作品や作家について、観て知ってもらう機会を展開しているのである(8)。
展望
ココペリも金沢アート工房も支援学校や施設に入所する障害者が多く見受けられるが、支援学級の障害者の境遇はいかがだろうか。筆者としては同じ症状を持つ発達障害者が小学校に在学し、支援学級で同級生とも隔離された学校生活を送るのを見ていたのである。賛助会員である下山氏『資料2』も支援学級で生活しており、なぜ同じ学舎で隔離される必要があったのだろうか。
現在はインクルーシブ教育なる方針があるものの中身というと、下記になる。
1、障害に基づいて義務的な初等教育から中等教育を受けること。
2、自己の生活する地域社会で他者との平等を前提とすること。
3、個人に必要とする合理的配慮が提供されること。(9)
2000 年代後半に持ち上がった教育方針で、社会的には“2002年に全国的に発達障害の実態調査が行われ、2004年に「発達障害者支援法」が成立しているのである”(10)。しかし、ココペリのワークショップ『資料5』がなければ知らないままであった。
支援法成立当初の2000年代初期では各小中学校への周知も低いだろう。その後はインクルーシブ教育を旨とする“障害者権利条約に日本が2014年に批准したものの、通常学級のカリキュラムが枷になる。具体的に言うと義務教育の場合、学年ごとにこの科目を教えるという学習指導要領がある。
もう一つは“一斉授業”である。日本の小中学校の大体はこれが普通で、カリキュラムの遂行には、子どもが全員理解できているかは不問(11)としており、ついていけない者は放置なのである。
支援者である保護者や先生でも障害者の性格に四苦八苦する。同級生として物事に共有する機会もこだわり行動によって絞られやすい。このバイアスを乗り越えるべくココペリや369ARTではどのような取り組みを行っているのだろうか。
インクルーシブ教育のために障害者と健常者の交流機会がないか調べたところ、ココペリの責任者である米田氏による企画が行われているのである。
小中高の芸術鑑賞について、ばーと◎とやまが高岡市との共同企画で米田氏がいくつかの小学校へ出向き、 作品や作家の理解を深める活動を行い、支援学校勤務だった繋がりで多くの場所で講演もされている(12)。
369ARTでは、属性に限らず個々が活躍できる活動を方針とし、 2023年の砺波市役所『資料4』での展示は、「共生」をテーマに福祉事業所とのコラボで展示したのである。
活動目的に県内の人材育成、発表の機会創出の支援を掲げるばーと◎とやまの企画には舞台芸術祭に合わせた企画『資料6』や県外からアート工房を招致して美術展の企画『資料7』と、氷見『資料8』でのワークショップなどを開催しているのである。
まとめ
懸念材料として障害者のこだわり行動は一分野では有効でも、社会生活では協調性運動障害による反射神経の鈍さで体育などの運動に後れを取る。“周囲からの要求水準が高くなる”(13)ためいつまでも課題ができず何年も過ぎるのである。
障害者の接し方を学ぶべく、筆者が中学時代にお世話になった斎藤商店へ取材し、就業しながら学ぶ障害者の指導について伺った。すると、
“「障害者は10年かけて一つを覚えていくものであること、人の名前が覚えれず〔あれ〕〔おばちゃん〕としか言えないため何ヶ月かかけて覚えていく。”(14)そのため指導者には根気が必要であり、耐えきれずに離れる者もいることに苦労した。」(15)というのである
その苦悩が通常学級ではできない科目があればその一つ一つをこなさせるのが一般的とするのに対し、(16)障害による覚えの悪さから自尊心の低下につながる。さらに学習性無力感(16)と反抗挑戦性障害に移行して障害の外在化(18)へとエスカレートする危険も秘めている。常に対象者にふさわしい教育は何か問いたださなければならない。
創作活動を続ける障害者の著作権(19)もさながら、周囲の理解なければインクルーシブ教育などない。ただ、同じ趣味がある共通点など合致できるなら普通の趣味人と変わらないのである。 ココペリはハンデの有無や、支援学校及び普通の学校の垣根を超えて活動しようと抗う者の拠り所であると考える。
参考文献
(1)(2)発達障害事典 日本 LD 協会 丸善出版株式会社 2016 年 308 ページ、309 ページ
(3)こだわり行動はなぜ起こる?対応方法は?
児童発達支援・放課後等デイサービス ハッピーテラス
デコボコベース株式会社 2024年1月27日閲覧
こだわり行動はなぜ起こる?対応方法は?|ASDのお子さま (happy-terrace.com)
(4)自閉スペクトラム症者のこだわり行動の理解と対応 セルフコントロールに関する応用行動分析学的研究 今本 繁 合同会社ABC研究所 自閉スペクトラム症,こだわり行動,応用行動分析 2017年
2024年1月27日閲覧
https://researchmap.jp/read0208449/presentations/15970518/attachment_file.pdf
(5)作業療法、上記と同上 424 ページ
(6)金沢アート工房2024年1月27日閲覧http://www.kanazawa-art.jp/
(7)金沢アート工房責任者、國枝千晶氏へのメールによる取材 2023年12月18日
(8)369ART
2024年1月27日閲覧
https://www.369art369.com/
(9)(1)と同上110ページ
(10) 知的障害教育の変遷過程にみられる特殊学級の存在意義――教育行政施策と実践との比較検討 をとおして―(キーワード:知的障害特殊学級,歴史,教育行政施策,実践,運動)問題の所在 と目的 八幡ゆか
2024年1月27日閲覧
https://core.ac.uk/download/pdf/236641153.pdf
(11)インクルーシブ教育とは?専門家が明かす、その特長や課題、実例を紹介
パラサポWeb青山新吾 2023年
2024年1月27日閲覧
https://www-parasapo-tokyo.cdn.ampproject.org/v/s/www.parasapo.tokyo/topics/104693/amp?amp_gsa=1&_js_v=a9&usqp=mq331AQKKAFQArABIIACAw%3D%3D#amp_tf=%251%24s%20%E3%82%88%E3%82%8A&aoh=16781511362641&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&share=https%3A%2F%2Fwww.parasapo.tokyo%2Ftopics%2F104693
(12)369ART責任者渡邉陽子氏へのメールによる取材 2023年12月30日受信
(13)発達性強調運動障害[DCD]不器用さのある子どもの理解と支援 辻井正次 宮原資英 監修 金子書房 2019年 143ページ
(14)斉藤商店 高齢・障害・求職者雇用支援構 2024年1月27日閲覧 https://www.ref.jeed.go.jp/pdf_archives/24/24307.pdf
(15)斉藤商店店主、斉藤寛明氏へのインタビュー
(16) 支援が困難な事例に向き合う発達臨床 教育、保育、心理、福祉、医療の現場から 別府悦子 香野毅 ミネルヴァ書房 2018 年 94.95 ページ
(17)心理学を学ぼう 第二版 水野りか ナカニシヤ出版 2010年 13ページ
(18)(1)と同上 6ページ
(19)
アールブリュット TOKYO人権 第54号(平成24年6月29日発行)
特集「障害者アート」で起業 著作権を保障し、障害者の生き方に選択肢を
東京人権センター 2024年1月27日閲覧
https://www.tokyo-jinken.or.jp/site/tokyojinken/tj-54-feature.html
資料5、資料6より
(20)、(21)ばーと◎とやまからのボランティア募集によるメール 2022年5月20日受信
資料7より
(22)やまなみ工房「アートってなんなん」2024年1月27日閲覧
「アートって何なん? ーやまなみ工房からの返信ー」|EXHIBITION|展覧会│やまなみ工房 (a-yamanami.jp)
資料3より
(23)
「社会に学ぶ 『14歳の挑戦』」富山県庁 2024年1月20日閲覧
https://www.pref.toyama.jp/3002/14saityousen.html
(24)下山古国府氏 アートの輪
運営: 一般社団法人障がい者アート協会
(25)
「アートギャラリー大黒屋」2024ねん1月27日閲覧
アートギャラリー大黒屋 (amebaownd.com)
『資料4』より
(26) 369ART 2024年1月27日閲覧 https://www.369art369.com/
(27)障害者週間にあわせたアート作品展示(12月8日まで)
公開日時:2023年12月01日 16時12分
砺波市役所 2024年1月27日閲覧
https://www.city.tonami.lg.jp/info/65372p/
(28)一般社団法人ものがたりの街 2024年1月27日閲覧
ものがたりの街|安心して過ごせる空間を皆で作っていく場所|富山県砺波市太田地区 (monogatarinomachi.jp)
(29)一般社団法人ストレングス 2024年1月27日閲覧
「紙飛行機」は富山県射水市の放課後デイサービスです。「aid」は富山県の児童家庭支援センターです。 (sutorengusu.jp)
(30)氷見市芸術文化館 2024年1月27日閲覧
氷見市芸術文化館|氷見の芸術や文化を伝える (himi-bunka.or.jp)