早川 克美(教授:CLO)2024年3月卒業時の講評
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。
ここでは採点を担当したweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。なお、未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。
公開されているレポート5点をご紹介すると、
「北門廣場とよみがえった北門」
台北市に位置する北門廣場によって、北門の歴史的、社会的な価値をあらためて表出させることに成功しているとする説得力のある論の展開で、大変興味深く読ませていただきました。門の景観評価を内部と外部からそれぞれ考察することで、存在意義を明確に示せたと思います。また、中正紀念堂との丁寧な比較では、芦原義信の理論からの問題提示、ヤン・ゲールの距離と目の能力の関係から「人間的スケール」によって全方位性の優れた点を納得させました。資料も十分に検証されたことが伝わってくる力作でした。
「ヴェネツィア潟(ラグーナ)を見守るブリコレ」
ラグーナとともにあるブリコレを文化資産として見つけられたことがまず素晴らしい。このように、人間が自然と共存し、守っていくための知恵である海洋土木構造物は、まさに、文明、文化資産であるといえるでしょう。気候変動と対するヴェネツィアのひとつの象徴ですね。ブリコレにまつわる、環境デザインへの評価3点も明確に整理されています。東京湾の三番瀬との比較は日本人があらためて反省すべき示唆です。添付資料の図や写真、インタビュー内容等、充実した内容でした。
「虎渓用水広場」
岐阜県多治見市にある虎渓用水広場の特質が理解できるわかりやすいレポートでした。評価のポイントも明確で、なぜ地域特有の空間といえるのか、その理由が説得力ある記述で語られています。また、さらにズームアウトした視点からの場所性への言及も、そこだから生み出せるアイデンティティだという指摘は納得しました。均質化されていく世界の中で、意味ある場所の価値について語られた展望とまとめには、共感しました。
「ノーサンプトン・メインストリート」
アメリカ・マサチューセッツ州のノーサンプトン・メインストリートの特徴がよくわかり、評価ポイントも的確な指摘でした。添付資料も読み応えがあり、誠実に事例と向き合われたことがわかります。町並みのプロット、歴史年表、昔の地図との比較、メインストリートを取り巻く文化など、本文を補完する貴重な資料でした。モントリールとの比較も適切であったと思います。
「カンボジアのハーブティーブランド「Demeter(デメテル)」の企業活動」
ご自身が関わられていたこともあり、生産者として参加される女性のインタビューなど、実態に近づいた良い調査レポートとなっています。評価された点と、特筆される事業デザインは大変魅力的で、素晴らしい取り組みですね。課題もたくさんあるでしょうが、それらをカバーできる事業デザインなのだと得心しました。
なんと、私の採点させていただいた優れたレポートの4/5は海外の事例、つまり、海外在住であったり、お仕事の関係だったりされる方でした。海外組は本を入手するのにもご苦労があることはこれまでも伺ってきましたが、そうした環境の中で、こうして、最終成果を素晴らしいレポートで締めくくられたこと、まことに立派だと思いました。芸術教養学科の学びが着実に世界に広がっていることを実感させてくれました。ありがとうございます。
さて、レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。
いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。
これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。
ここでは採点を担当したweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。なお、未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。
公開されているレポート5点をご紹介すると、
「北門廣場とよみがえった北門」
台北市に位置する北門廣場によって、北門の歴史的、社会的な価値をあらためて表出させることに成功しているとする説得力のある論の展開で、大変興味深く読ませていただきました。門の景観評価を内部と外部からそれぞれ考察することで、存在意義を明確に示せたと思います。また、中正紀念堂との丁寧な比較では、芦原義信の理論からの問題提示、ヤン・ゲールの距離と目の能力の関係から「人間的スケール」によって全方位性の優れた点を納得させました。資料も十分に検証されたことが伝わってくる力作でした。
「ヴェネツィア潟(ラグーナ)を見守るブリコレ」
ラグーナとともにあるブリコレを文化資産として見つけられたことがまず素晴らしい。このように、人間が自然と共存し、守っていくための知恵である海洋土木構造物は、まさに、文明、文化資産であるといえるでしょう。気候変動と対するヴェネツィアのひとつの象徴ですね。ブリコレにまつわる、環境デザインへの評価3点も明確に整理されています。東京湾の三番瀬との比較は日本人があらためて反省すべき示唆です。添付資料の図や写真、インタビュー内容等、充実した内容でした。
「虎渓用水広場」
岐阜県多治見市にある虎渓用水広場の特質が理解できるわかりやすいレポートでした。評価のポイントも明確で、なぜ地域特有の空間といえるのか、その理由が説得力ある記述で語られています。また、さらにズームアウトした視点からの場所性への言及も、そこだから生み出せるアイデンティティだという指摘は納得しました。均質化されていく世界の中で、意味ある場所の価値について語られた展望とまとめには、共感しました。
「ノーサンプトン・メインストリート」
アメリカ・マサチューセッツ州のノーサンプトン・メインストリートの特徴がよくわかり、評価ポイントも的確な指摘でした。添付資料も読み応えがあり、誠実に事例と向き合われたことがわかります。町並みのプロット、歴史年表、昔の地図との比較、メインストリートを取り巻く文化など、本文を補完する貴重な資料でした。モントリールとの比較も適切であったと思います。
「カンボジアのハーブティーブランド「Demeter(デメテル)」の企業活動」
ご自身が関わられていたこともあり、生産者として参加される女性のインタビューなど、実態に近づいた良い調査レポートとなっています。評価された点と、特筆される事業デザインは大変魅力的で、素晴らしい取り組みですね。課題もたくさんあるでしょうが、それらをカバーできる事業デザインなのだと得心しました。
なんと、私の採点させていただいた優れたレポートの4/5は海外の事例、つまり、海外在住であったり、お仕事の関係だったりされる方でした。海外組は本を入手するのにもご苦労があることはこれまでも伺ってきましたが、そうした環境の中で、こうして、最終成果を素晴らしいレポートで締めくくられたこと、まことに立派だと思いました。芸術教養学科の学びが着実に世界に広がっていることを実感させてくれました。ありがとうございます。
さて、レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。
いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。
これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。