宮 信明(准教授)2022年9月卒業時の講評
みなさん
卒業研究レポートの作成、お疲れさまでした。
思いの外すらすらと書き上げることができた方、悩みに悩んでようやく形にすることができた方、自分が書いたレポートに手応えのあった方、なんとか書き上げたものの自信のない方等々、各人各様かと思います。が、いずれのレポートにおいても、さまざまな興味深い事例が報告されていました。
地域におけるデザインの取り組み(炭坑と建築美術、福島の大内宿、上海の外灘、太閤まつり、水都大阪、福岡市の小学校跡地活用)、地域の図書館、歴史館、劇場などの活動(新宿区の図書館、川俣の絹織物の展示館、沖縄の民間小劇場)、歴史的・伝統的な製品(和紙と紙問屋、アロハシャツ、沖縄の織物、和紙と市民参加型プロジェクト)、また神戸の洋菓子店を取り上げてくださった方もいらっしゃいます。いずれのレポートも題材、そしてそれを論じるための視点がじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。
個別のレポートの点数と講評については、個々にお伝えしてありますので、ここでは、みなさんの卒業研究レポートの全体的な特徴や傾向、改善点について、述べていきたいと思います。
まず、シラバスにも明記されていますが、卒業研究では、さまざまな場で実践されているデザイン・芸術活動に関して情報収集を行い、分析・考察して「文化資産評価報告書」を作成することが求められています。つまり、関連資料や先行研究、フィールドワーク等によって調査したことを整理するだけでなく、それらを分析・考察した上で、独自の見解(評価)を報告しなければなりません。しかし、基本データと歴史的背景のまとめに多くの紙幅を割いてしまい、肝心の分析や考察が十分になされていないレポートがいくつかありました。
次に、卒業研究レポートの規定文字数は「3200字程度」です。これはすでに経験されたみなさんならよくお分かりのように、決して多い文字数ではありません。ご自身の見解を過不足なく示すためには、切り口(視点)を設定して、論述する必要があります。しかし、だからといって一面的な分析に終始してよいわけではありません。論点を定めつつ、それを多面的に考察すること、つまり収斂と拡散のバランスが大切なのですが、残念ながら、どちらか一方になってしまっている方もいらっしゃいました。独自の切り口を設定し、具体的な数値やデータ(論拠)を示しながら、規定の文字数のなかで、いかに多面的に考察することができるのか、改めて考えてみていただければと思います。
また、卒業研究では、「2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか」のみならず、「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」についても、明記するように指示されています。比較考察する場合には、比較対象の妥当性(なぜそれと比較するのか)、比較の視点(どの点を比較するのか、どちらも同様の視点からの比較になっているか)、比較対象との類似点と相違点、さらにそこから導き出される見解などを示さなければなりません。せっかく比較しているのに、それらを欠くために、読んでいて論拠や論理展開が不十分だと感じるレポートもいくつかありました。そもそも「同様の事例」との比較がまったくなされていないレポートもありました。うっかり忘れられたのだとは思いますが、ご注意ください。
さらに、レポートとは自身の見解を客観的に述べるものです。「A=B、B=C、よってA=Cである」と。だからこそ「感じる」や「思う」といった主観的な表現はできるだけ避けたほうがよいのです。今回の卒業研究レポートでも、何人かの方が、自分自身の関わる芸術的な活動を取り上げていらっしゃいました。その対象に関わらず、たとえ自分のことであったとしても、レポートとしては客観的に記述しなければなりません。ところが、主観的な表現を多用してしまい、一部分ではありますが、エッセーのような文体になってしまっている方もいらっしゃいました。
最後に、レポートの表記・体裁についても一言述べておきます。主語と述語の不対応、曖昧な修飾、表現の重複など、個別の文章表記の問題については、それぞれの講評を参照いただくとして、ここで強調しておきたいのは、註や参考文献などの表記についてです。書誌情報が不十分なもの、記載方法が間違っているもの、図版番号が未記載のものなど、問題が散見されました。註や参考文献の表記は、それぞれの学問分野で細かい差異がありますが、基本的な事項は共通しています。いま一度、airU学習ガイドの「論文・レポートを書くために」をご確認ください。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。そのためこの総評でも、個別講評でも厳しいことをあれこれと書いてしまいましたが、それぞれのレポートは卒業に値するクオリティに達していました。ぜひこれからも、芸術教養学科で学習したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。ご卒業、誠におめでとうございます!
卒業研究レポートの作成、お疲れさまでした。
思いの外すらすらと書き上げることができた方、悩みに悩んでようやく形にすることができた方、自分が書いたレポートに手応えのあった方、なんとか書き上げたものの自信のない方等々、各人各様かと思います。が、いずれのレポートにおいても、さまざまな興味深い事例が報告されていました。
地域におけるデザインの取り組み(炭坑と建築美術、福島の大内宿、上海の外灘、太閤まつり、水都大阪、福岡市の小学校跡地活用)、地域の図書館、歴史館、劇場などの活動(新宿区の図書館、川俣の絹織物の展示館、沖縄の民間小劇場)、歴史的・伝統的な製品(和紙と紙問屋、アロハシャツ、沖縄の織物、和紙と市民参加型プロジェクト)、また神戸の洋菓子店を取り上げてくださった方もいらっしゃいます。いずれのレポートも題材、そしてそれを論じるための視点がじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。
個別のレポートの点数と講評については、個々にお伝えしてありますので、ここでは、みなさんの卒業研究レポートの全体的な特徴や傾向、改善点について、述べていきたいと思います。
まず、シラバスにも明記されていますが、卒業研究では、さまざまな場で実践されているデザイン・芸術活動に関して情報収集を行い、分析・考察して「文化資産評価報告書」を作成することが求められています。つまり、関連資料や先行研究、フィールドワーク等によって調査したことを整理するだけでなく、それらを分析・考察した上で、独自の見解(評価)を報告しなければなりません。しかし、基本データと歴史的背景のまとめに多くの紙幅を割いてしまい、肝心の分析や考察が十分になされていないレポートがいくつかありました。
次に、卒業研究レポートの規定文字数は「3200字程度」です。これはすでに経験されたみなさんならよくお分かりのように、決して多い文字数ではありません。ご自身の見解を過不足なく示すためには、切り口(視点)を設定して、論述する必要があります。しかし、だからといって一面的な分析に終始してよいわけではありません。論点を定めつつ、それを多面的に考察すること、つまり収斂と拡散のバランスが大切なのですが、残念ながら、どちらか一方になってしまっている方もいらっしゃいました。独自の切り口を設定し、具体的な数値やデータ(論拠)を示しながら、規定の文字数のなかで、いかに多面的に考察することができるのか、改めて考えてみていただければと思います。
また、卒業研究では、「2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか」のみならず、「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」についても、明記するように指示されています。比較考察する場合には、比較対象の妥当性(なぜそれと比較するのか)、比較の視点(どの点を比較するのか、どちらも同様の視点からの比較になっているか)、比較対象との類似点と相違点、さらにそこから導き出される見解などを示さなければなりません。せっかく比較しているのに、それらを欠くために、読んでいて論拠や論理展開が不十分だと感じるレポートもいくつかありました。そもそも「同様の事例」との比較がまったくなされていないレポートもありました。うっかり忘れられたのだとは思いますが、ご注意ください。
さらに、レポートとは自身の見解を客観的に述べるものです。「A=B、B=C、よってA=Cである」と。だからこそ「感じる」や「思う」といった主観的な表現はできるだけ避けたほうがよいのです。今回の卒業研究レポートでも、何人かの方が、自分自身の関わる芸術的な活動を取り上げていらっしゃいました。その対象に関わらず、たとえ自分のことであったとしても、レポートとしては客観的に記述しなければなりません。ところが、主観的な表現を多用してしまい、一部分ではありますが、エッセーのような文体になってしまっている方もいらっしゃいました。
最後に、レポートの表記・体裁についても一言述べておきます。主語と述語の不対応、曖昧な修飾、表現の重複など、個別の文章表記の問題については、それぞれの講評を参照いただくとして、ここで強調しておきたいのは、註や参考文献などの表記についてです。書誌情報が不十分なもの、記載方法が間違っているもの、図版番号が未記載のものなど、問題が散見されました。註や参考文献の表記は、それぞれの学問分野で細かい差異がありますが、基本的な事項は共通しています。いま一度、airU学習ガイドの「論文・レポートを書くために」をご確認ください。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。そのためこの総評でも、個別講評でも厳しいことをあれこれと書いてしまいましたが、それぞれのレポートは卒業に値するクオリティに達していました。ぜひこれからも、芸術教養学科で学習したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。ご卒業、誠におめでとうございます!