加藤 志織(准教授)2020年3月卒業時の講評
学生のみなさん、卒業研究の作成お疲れ様でした。本科目を担当している教員の加藤志織です。毎回感じることですが、文化資産として非常に興味深い事例を幅広く探してくださり、それぞれに熱意をもって論じてくださいました。みなさんの関心の多様性と発想力の豊かさに感心します。どのレポートも読み応えがあり、その内容に引き込まれました。ご卒業後も本学科で学んだ能力・知識を活用して、まだ知られていない文化資産を発見し、それを独自の視点から評価していただければ幸いです。
今期に採点を担当した卒業研究に関しては、個別に講評をおこなっていますが、この場であらためて総評をお伝えします。個別の講評においては、厳しい指摘が含まれていたかもしれませんが、復習に役立てていただき、今後の学びにつなげていただければ幸いです。
上で述べたように、興味をもった事例を取り上げて、各自が熱っぽく語っていただきました。この点においては素晴らしいと思いますが、論述に一貫性が欠けていたり、客観性が不充分であったりするレポートが多くみられました。論述に一貫性や客観性が不足している理由には、まずは文章力や論の構成力の不充分さを上げることができます。
さらに取り扱う論点が曖昧で大きすぎるという問題もあります。そもそも本課題に許されているのは3200字しかありません。この文字量で過不足なく論じるためには、かなり事例を絞り込まなければなりません。例えば、「美濃焼における時代にあった商品開発」のようなものはダメで、「A工房によるB商品開発過程にみるデザインの見直し」くらいにする必要があると思います。曖昧で大きすぎる事例を選んでしまうと、概要の紹介で終わってしまいます。また論点も定まりません。
もう一つ理由を挙げておきます。それは課題の趣旨の理解が充分ではないことです。卒業研究で第一に求められていることは、シラバスにも明記されているように「事例の何について積極的に評価しようとしているのか」ということです。これは評価対象に関して、どのような点がデザインとして優れているのかを、オリジナルな視点から考察して下さいということです。ですが、実際にみなさんに提出していただいたレポートを拝読すると、すでに先行研究等で語られていることを整理している段階のものが多く、まだ独自の観点からの見解を客観的に論じることができていません。
また「国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか」という観点からの分析をレポートに盛り込んでいただく必要がありますが、その「他の同様事例」が挙げられていない、あるいはそれが不明確なものが複数ありました。事例の評価理由と他事例との比較は関連させると効果的ですが、両者の関係性がわかりづらいレポートもありました。卒業研究は、他科目よりも自由に事例や論点を選択・設定できますが、課題で指定された条件は満たさなければなりません。
他事例との比較においては、比較から有益な分析結果を導きだすことが重要です。もともと異なる事例なので、その2つの間に違いがあることは当然です。そうした自明の相違点をただ指摘してもそれは分析をしたことになりません。自明の違いの先に存在する意味を明るみに出して、客観的にその意味の重要性を説明することが必要です。論証に際しては具体例やデータ等を列挙しながら客観的に説明していただくことが求められています。事実に基づいた論証を心がけましょう。
最後にレポートの体裁についても述べておきます。註が正しく付けられていないものがありました。まず他者の論考を参考にして書いた部分には註を付けて典拠を示す必要があります。註の付け方には、学問ジャンル等による違いはありますが、基本は同じです。独自の表記方法で註や図あるいは資料を添付することは不適切です。レポートの論旨を理解する上で必要不可欠な情報は、レポート本文に書かなければなりませんが、それを註に入れている方がいらっしゃいます。註の役割をきちんと確認しましょう。ものごとを研究・分析して、その結果を分析することは簡単ではありません。ある意味、学部生の段階では完全にできなくてもしかたないと思います。ご卒業された後も、ぜひ学びを継続して論述のスキルを磨いてください。
これまでの学習によって、みなさんには「デザイン思考」や「伝統を見るまなざし」が身についています。その能力を社会で活かしてください。みなさんの今後のご活躍を心より願っています!
今期に採点を担当した卒業研究に関しては、個別に講評をおこなっていますが、この場であらためて総評をお伝えします。個別の講評においては、厳しい指摘が含まれていたかもしれませんが、復習に役立てていただき、今後の学びにつなげていただければ幸いです。
上で述べたように、興味をもった事例を取り上げて、各自が熱っぽく語っていただきました。この点においては素晴らしいと思いますが、論述に一貫性が欠けていたり、客観性が不充分であったりするレポートが多くみられました。論述に一貫性や客観性が不足している理由には、まずは文章力や論の構成力の不充分さを上げることができます。
さらに取り扱う論点が曖昧で大きすぎるという問題もあります。そもそも本課題に許されているのは3200字しかありません。この文字量で過不足なく論じるためには、かなり事例を絞り込まなければなりません。例えば、「美濃焼における時代にあった商品開発」のようなものはダメで、「A工房によるB商品開発過程にみるデザインの見直し」くらいにする必要があると思います。曖昧で大きすぎる事例を選んでしまうと、概要の紹介で終わってしまいます。また論点も定まりません。
もう一つ理由を挙げておきます。それは課題の趣旨の理解が充分ではないことです。卒業研究で第一に求められていることは、シラバスにも明記されているように「事例の何について積極的に評価しようとしているのか」ということです。これは評価対象に関して、どのような点がデザインとして優れているのかを、オリジナルな視点から考察して下さいということです。ですが、実際にみなさんに提出していただいたレポートを拝読すると、すでに先行研究等で語られていることを整理している段階のものが多く、まだ独自の観点からの見解を客観的に論じることができていません。
また「国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか」という観点からの分析をレポートに盛り込んでいただく必要がありますが、その「他の同様事例」が挙げられていない、あるいはそれが不明確なものが複数ありました。事例の評価理由と他事例との比較は関連させると効果的ですが、両者の関係性がわかりづらいレポートもありました。卒業研究は、他科目よりも自由に事例や論点を選択・設定できますが、課題で指定された条件は満たさなければなりません。
他事例との比較においては、比較から有益な分析結果を導きだすことが重要です。もともと異なる事例なので、その2つの間に違いがあることは当然です。そうした自明の相違点をただ指摘してもそれは分析をしたことになりません。自明の違いの先に存在する意味を明るみに出して、客観的にその意味の重要性を説明することが必要です。論証に際しては具体例やデータ等を列挙しながら客観的に説明していただくことが求められています。事実に基づいた論証を心がけましょう。
最後にレポートの体裁についても述べておきます。註が正しく付けられていないものがありました。まず他者の論考を参考にして書いた部分には註を付けて典拠を示す必要があります。註の付け方には、学問ジャンル等による違いはありますが、基本は同じです。独自の表記方法で註や図あるいは資料を添付することは不適切です。レポートの論旨を理解する上で必要不可欠な情報は、レポート本文に書かなければなりませんが、それを註に入れている方がいらっしゃいます。註の役割をきちんと確認しましょう。ものごとを研究・分析して、その結果を分析することは簡単ではありません。ある意味、学部生の段階では完全にできなくてもしかたないと思います。ご卒業された後も、ぜひ学びを継続して論述のスキルを磨いてください。
これまでの学習によって、みなさんには「デザイン思考」や「伝統を見るまなざし」が身についています。その能力を社会で活かしてください。みなさんの今後のご活躍を心より願っています!