志太茶産地「藤枝」のお茶の歴史と取り組み

勝岡 臣世

①はじめに

静岡県の茶園面積は17,100ヘクタールで(H29年)全国収穫量の約40%を占め、牧之原をはじめ20を超える茶の産地がある日本一の茶どころである。
(ふじのくに 静岡県公式ホームページより H30 8/1付 参照)
「やぶきた」は全国で75%と最も普及しているお茶の品種であるが、静岡県では90%以上がその茶園面積を占めている。
今回は、数ある産地の中で私の暮らす静岡県の志太地域、藤枝にスポットをあててみたいと思う。

②基本データ

静岡県の志太茶産地として知られる藤枝市は、山間部では茶畑がひろがり、河川地域が主産地となっている。(写真①)「手もみ茶」「碾茶」、近年では独自のブランド「藤枝かおり」などを生産している。
また、市内の岡部町朝比奈は、「玉露」の産地としても有名である。
藤枝市の面積は194.03㎢、(2015年)茶園面積は1210ヘクタール、荒茶生産量は2020トンである。(「静岡県茶業の現状」より平成21年度)

③歴史的背景

静岡県の茶の歴史は1241年に足久保(現在の静岡市)の地に聖一国師が留学先の宋の国から持ち帰った茶の種子を播いたのが始まりとされている。
その後、安倍川、大井川、天竜川流域の山間部を中心に栽培していった。
徳川家康が全国を統治した江戸時代初期には自家用として茶栽培が始まっていたとされ、文禄、慶長の『年貢皆済伏』の文書の中にお米やお金の代わりに紙、布の他お茶を納めていたと確認でき、大量に生産されていた事がわかる。

志太地域でのお茶の栽培については、天正15年(1585年)に初めて種をまき、文禄2年(1593年)に駿府の代官に茶を収めたという記録がある。
藤枝では、江戸時代から大久保や蔵田などの北部山間地でお茶が盛んに作られていた。
牧之原では明治2年に開墾し、日本最大の茶産地へと形作られ、
朝比奈山でも旧徳川藩士、石井謙次郎らにより茶畑が開かれていった。 安政6年(1859年)に横浜港が開港、明治29年に清水港が外国貿易港になるとお茶の輸出は拡大し、明治22年の東海道線の開通に伴い、藤枝には多くのお茶が集まり藤枝駅から近い茶町に商品が集中する様になった。
藤枝は北部の山間地、南部の平野部にも広大な茶産地を控える立地条件と東海道線の交通手段として明治時代以降の志太地域の集散地として繁栄したのである。

また、同じ頃、明治26年にはアメリカ、シカゴの国際博覧会で藤枝市の杉本金次郎氏が手もみ茶を出店し特別賞を受賞、藤枝のお茶が世界に認められ茶業が活気付いていった。

④朝比奈玉露

明治20年頃、霜よけの為に茶樹に「わらかけ」をしたところ、大変上質なお茶ができあがり、明治末期に5~6戸の農家が玉露茶として被覆栽培を行い始めた。ほとんどが宇治へ流通されていたが、昭和30年から農協でも取り扱い、「岡部銘茶朝比奈玉露」として販売される様になる。
その後、宇治、八女と並ぶ日本三大玉露産地へと発展していった。茶園管理と製造技術の高さが評価され、昭和40年以降農林水産大臣賞を何度も受賞している。平成3年には「玉露の里」(写真②)が岡部町にオープンし、魅力を伝えている。

⑤蘭字

お茶の輸出時に、使用したラベルが浮世絵の技術に連なる「蘭字」である。
デザイナーは外国人で、制作は浮世絵工房の日本人であった。幾つかの図柄から選ぶ、今でいうセミオーダーの様な形式をとり、銘柄や会社名が一目でわかるだけでなく、日本の四季や花鳥風月と英字が調和したラベルを和紙で作成した。アンペラの袋や、茶箱に貼る際、薄い和紙の方が都合がよかった為である。これは日本における近代グラフィックデザインの先駆けともいえ、お茶を通じてできたアートの産物である。蘭字欲しさに茶を購入する客もあったとされる。
藤枝市茶町にある「蘭字ギャラリー」では、色鮮やかな蘭字デザインを見る事ができる。(写真③)

⑥宇治と藤枝

明惠上人が栄西禅師から贈られた宋の茶の種を栂尾と宇治の地に播いたことに始まる日本のお茶の原点ともいうべき茶産地が「宇治」である。宇治市を中心として玉露、碾茶(抹茶)の主産地である。府南地方では上級煎茶の生産が行われ、また仕上げの技術が高く、宇治茶としての名が高い、まさに日本を代表する茶のブランドの地といえる。
京都には老舗の茶問屋が数多くあり、その一つである1860年創業の「辻利」(現「祇園辻利」)が創業した宇治茶の専門店「都路里」祇園本店には、私も何度か足を運んだ事があり、常に行列ができる人気ぶりである。

天保8年(1835)、藤枝からほど近い志太郡伊久美(現 島田市)に宇治の茶師を招いて、「宇治製法」(路上に竹を渡して助炭を置き、その上で茶葉を揉み切りするという、近代的揉み技法の基礎ともいうべき方法)が初めて静岡県内にもたらされた。
それから静岡県の製茶技術が向上していく事となる。
昭和30年までは、宇治に朝比奈玉露が流通しており、現在では藤枝、宇治共に玉露の名産地であるところは共通点であり、大きな繋がりであったとある。
藤枝のお茶の特筆すべきものとして、瀬戸ノ谷の大茶樹があげられる。(写真④-1④-2)樹齢は約300年とされ、県内最古といわれている。樹高4m、周囲33mで、毎年生茶で15~30kgを収穫している。そのお茶は縁起物とされ、市内の施設に配布もしている。
茶の集散地であった茶町を中心に現在でも茶問屋、再製工場、茶函屋が軒を並べ、近くには、明治34年に設立された旧藤枝製茶貿易会社の建物が残っている。北米西海岸への茶の輸出の際に、伊久美等から茶葉を藤枝市茶町まで運び、ここで製茶再生を行い、清水港から輸出していた。その先駆けが藤枝製茶貿易会社であった。とんがり屋根の三階建ての洋館の屋根には「茶」の文字が刻まれており、お茶の町を象徴する建物になっている。
また、藤枝市内には近年話題のお茶とお菓子のお店「ななや」がある。1907年創業の丸七製茶株式会社が出店し、藤枝産の静岡抹茶を使用した濃度の違う抹茶が7段階で食べ比べられるジェラートが、目玉商品となっている。(写真⑤)農林水産大臣賞を受賞し、京都にも出店するなど、年々規模を拡大しており、藤枝の抹茶の知名度アップに繋がっている。店内はおしゃれな空間で、茶葉だけでなく可愛らしいお菓子のパッケージや、茶器や雑貨などに目に止まる。現代的かつ居心地の良い空間と商品展開、更にデザイン性に優れたお店である。
藤枝は宇治の歴史の長さにはかなわないが、独自の茶の歴史があり、お茶の可能性を広げている人や企業があり、まだまだ伸びしろがある町であると私は考察する。

⑦評価する点と今後の展望

一般的に、藤枝市民は緑茶をのむ習慣が根付いている。ただ、藤枝のお茶の全盛期に比べると消費量も落ち、地元のお茶を急須で毎日飲むのは減少傾向にある。
しかし、子供達にお茶に親しんでもらおうという自治体の取り組みがみられる。
志太地区の島田市では蛇口からお茶が出てくる小学校もある。藤枝でも給食時には大きなやかんにお茶が用意されており、自由に飲むことができる。最近では、インフルエンザ予防対策として、うがい用に温かい緑茶を水筒にいれて持参するよう通達があった。お茶の効能が認知されている、お茶が身近な地域だからこその対策ではないかと考える。
更に近年では、授業の一環として、お茶インストラクターが緑茶の淹れ方の指導にあたっており、子供がお茶の知識を学ぶ良い経験になっている。
お茶は、茶葉からいれるお茶だけにとどまらず、現代に合わせて多様化していくのは当然であると考える。藤枝では独自のブランドのお茶の開発もされ、その「藤枝かおり」は茶葉とペットボトルの販売もしている。(写真⑥)需要にあわせ、まずは手に取ってもらう事が肝心であると私は考える。
藤枝では茶町を中心に2003年の秋から毎年「お茶の香ロード」というイベントを開催している。(写真⑦)「お茶と歴史とアートの町」をキャッチコピーに、茶席、アート展、県内で活躍している若手アーティストとのコラボレーション等がある。まずは地元民が藤枝のお茶に親しむ事が大切である。アートと地元の歴史と共に、藤枝のお茶が県内外に益々発展していく事を願っている。

  • %e5%8b%9d%e5%b2%a11 写真① 瀬戸ノ屋の茶園風景 (31年1/28筆者撮影)
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a12 写真② 玉露の里 瓢月亭 (31年1/14筆者撮影)
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a13 写真③ 蘭字ギャラリー (30年12/10筆者撮影)
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a14 写真④‐1 瀬戸ノ谷の大茶樹 藤枝市HPより 転載
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a15 写真④‐2 瀬戸ノ谷の大茶樹 茶摘み風景 藤枝市HPより 転載
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a16 写真⑤ 「ななや」 抹茶ジェラート(31年1/28筆者撮影)
  • %e5%8b%9d%e5%b2%a17 写真⑥ 藤枝のオリジナルブランド「藤枝かおり」 藤枝市HPより 転載

参考文献

ティータイム・ブックス編集部 「世界のお茶、ふだんのお茶」株式会社晶文社 1998年7月30日初版
「第3回企画展 藤枝のお茶」藤枝市郷土博物館 1988年8月4日
制作・監修 NPO法人日本茶インストラクター協会「日本茶アドバイザー講座 第1巻」
特定非営利活動法人 日本インストラクター協会 2007年4月
制作・監修 NPO法人日本茶インストラクター協会「日本茶アドバイザー講座 第2巻」
特定非営利活動法人 日本インストラクター協会 2007年5月
「茶の都 しずおか」静岡県経済産業部 農林業局 茶業農産課 2013年10月
編集 滝口弘和「志太ふるさと文庫 志太の伝統産業② 伝統の技」志太広域事務組合 志太ふるさと文庫出版委員会 平成9年3月25日
「ぐるぐるマップ しずおか茶本舗」静岡新聞社 2004年10月1日発行
株式会社創碧社「しずおかの文化新書 お茶王国しずおかの誕生~江戸の名茶から世界の静岡茶へ~」財団法人 静岡県文化財団 2012年1月20日



内藤旭惠 西野真「静岡近代茶業の遺産活用と保存に関する研究」『静岡産業大学情報学部研究』紀要18号 2016年3月1日
ななや公式ホームページ参考
茶寮都路里公式ホームページ参考

年月と地域
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